ホームインスペクションは国土交通省の狙いに近い形でだいぶ浸透が進んできたことを2020年秋現在、だいぶ感じる様になった。

主には売主さんの費用で実施をすることを目指して宅建業者さんが斡旋する訳だが、およそ大手の宅建業者さんはそれを斡旋する事が普通の業務となりつつある。今でも軽く説明する程度で斡旋と言う表現には程遠い程度の投げ掛けしかしていない業者もあるとは思うが、だいぶ浸透してきたと言える。

宅建業者が「買取」と言う形で物件を購入する場合、それでも買取業者はホームインスペクションと殆ど変わらない検査を実施してその内容を確認して買取を決めている。その様な場合、再販される際は宅建業者が売主となり、かなりの範囲でしっかりとリフォームを実施して新しい買主へ物件は引き継がれる。

リフォーム瑕疵保険を付けて販売する業者もいるが、基本的に買主も業者へ少なくとも2年間はある程度の範囲の不具合に関してはクレームを言える事に加え、色や柄はともかくリフォームされたものを直ぐに手にする事が出来る。

それが「売る側」、「買う側」ともに一般消費者であり、物件が「現況」で売買される場合には大概3ヶ月程度しか購入した物件についてクレーム出来ず、それもごく重大な問題が発生した場合に限られる。家が傾いたとか、雨漏り、シロアリなどである。クレームはつける側も言われる側も共に気分の良いものでは無い。

そんな紛争を避ける意味で、一般消費者がなかなか点検出来ない部分をプロの設計士が診断する訳だ。

売る側、買う側共に大きなメリットとしては「売買される建物についてお互いに詳細を明確に知る事が出来る」と言う点だ。

インスペクションの実施が売却検討初期段階で実施された場合、そもそも価格を設定する前段階である為に、インスペクション結果を踏まえた価格査定や売却価格の決定が可能になり、これは強いて言えば仲介する宅建業者のメリットかもしれないが、例えば売主が「契約が決まったらそのお金の掛かるホームインスペクションをしても良いですよ」と希望を出した場合、折角現れた購入希望者がいるのにその診断結果を受けて愕然として契約に至らないケースもある。

また、仮に初期段階に実施しても、そもそも売主が売却価格と住宅ローンの事情などで仮に1,200万円で売れないと困る、と言う様な事情があった場合、診断結果によって1,000万円程度でしか売れないであろう結果が出ても価格を下げる事が出来ないケースもある。

何にせよ、売却した後に払った代金を減額して欲しいと買主から請求されても困るので、物件のありのままの状態がどんな状況であったか?明確な状態にしておくことが売主にとっての大きなメリットとなる。

次に買主にとってのメリットとしては、「こんな家だと思わなかった…」と言う後悔を防ぐ意味で重要となる。

以前のコラムでも書いているが、とにかく日本人の特性として新しいものを好む傾向があり、市場にも宅建業者が買い取ってリフォーム後、綺麗な状態で再販されている物件が多数見られる事からもそれを強く感じるが、そのリフォームを実施する前の段階で消費者間で取引きされるケースについて、重要な役割を持つのがホームインスペクションであり、不具合部分が炙り出されるので、私自身もこれを実施して診断書を見て購入する気持ちが無くなってしまわないだろうか?と思う事はほぼ毎回と言って良いほどだ。

住宅産業に長く携わった宅建業者でもこれは難しい事ではあるが、ホームインスペクションに加えて、指摘箇所のリフォーム提案、斡旋も出来るとホームインスペクションとセットで提示された買主はその購入判断がよりしやすくなるだろう。