【不動産会社】「こちらの住宅は古くて、ボロボロですけど、その分お安く売ってるんです」
【お客さん】「お風呂はこれじゃちょっと、キッチンも、トイレも…リフォームするのにどのくらいお金掛かりますかね?」
【不動産会社】「入替えするとなると400〜500万円はかかると思いますよ」
【お客さん】「そんなにかかるんですね。他には直すところとか無いですよね?」
【不動産会社】「無いと思いますよ」
今までの中古住宅の売買は概ねこの様な形であったであろうか?
とにかく不動産業者さんも仲介する立場でその家について、聞いた範囲と見た範囲でしか購入者さんへは説明のしようもなく、曖昧な話ししか出来なかったのが今まで。 購入した後に思ったよりも修繕にお金が掛かったり、思ってもみなかった不具合があったり、そんな事が更に中古住宅のイメージを悪くし、流通の妨げになっているのではないか? 更には新しいものが好きな国民性もその流通の妨げにはなっているし、家を大事に維持管理していくと言う発想が欠如している事もまた、たくさんの住宅ストックを積み上げてきた要因になっている。
その様な背景から既存住宅購入時の情報不足を埋める意味で一定の資格者によるインスペクションを実施と言う発想になった。 「既存住宅現況調査(インスペクション)」というものがそれにあたるのだが、平成30年4月1日の宅地建物取引業法の改正により「インスペクションをいうものがありますよ」と説明する義務を宅建業者に課したと言う事でスタートした。 そんなものがあることを説明されれば消費者、特に買主は是非やって貰いたいとならない訳はない。
出典:https://www.photo-ac.com/
当初は不動産屋さんはこう考えました。
「そんな事したら売れなくなるよ、大体誰がその調査費用のお金払うんだ!」
「あのー、何か問題ありましたか?なるべく無かった様に報告した下さい!」
令和2年4月からの民法改正の動きもあって、今後は益々インスペクションが当たり前になっていくであろう。 欧米諸外国では新築は殆ど無く、住宅が中古住宅として流通し、自分でリノベーションするのも当たり前、金額もリノベーションされたものは価格が上昇し、そこに利益が発生すらする。 そんな世の中で育った子供が大人になると当然の事として中古住宅を見る目も養われているし、それを購入することに何ら違和感も無い。
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ところが日本。この国では一次取得の若者世帯で「新築住宅」が当たり前。 30代の若者が杉や檜の木の香りを「臭い」と感じたりすらする。 そして中古であればどれだけ手を掛けてメンテナンスされていても金額は間違っても新築よりも高くはなったりしない。 新築住宅の国が定めた基準も戦後、数段階で変化しているが、建てた年代によって住宅の性能は著しく違うことを知る消費者は少ない。 つまり、消費者の方が見えない部分、分からない部分をプロが見て診断し、情報提供することで、より安心して購入の判断が出来る様になる。 例えば欧米の様に、よく手入れされ、リノベーションされた中古住宅があったとするならば、その住宅の診断結果は良好なものとなり、より高額な取引となっても良い筈ではある。 がしかし、国内で流通している中古住宅にそんな手入れが施されたものは殆ど存在しない。 これもまた現実だ。 今の段階はある意味はじめの一歩とも言うべきステップかもしれない。
どんなに高級なハウスメーカーが建てた高性能住宅であっても、残念ながら今の不動産業者の査定では掛けた費用ほどの高額な査定額は出ないのが現実だが、インスペクションが広まって一般的になり、消費者の知識や価値観が変化してくれば、今後は徐々にではあるかもしれないが、価格に差が生まれるのかもしれない。 少なくともそんな高性能な住宅がプロの診断書と共に売られていたら、皆さんはどう判断するだろうか? 又は売る側に立てば、こうしておけば良い診断が出て売りやすかったと気付くだろう、気付いた人が次に買った家ではちゃんとメンテナンスをする。 そうして徐々に、家に対する価値観が変化していくことを願います。
因みに、プロの診断を要する部分、それは大きくは床下のシロアリ、基礎と外壁の割れ、屋根と小屋裏の雨漏りである。 これらは消費者の方には分かりにくい部分ではある。 実際検査員に求められている検査基準はまだまだ緩く、100%を点検するものでも無く、その点検に対して何ら保証も付かないのが現状ではあるが、日本の住宅事情の向上の為には有益な第一歩だとは思える。 少なくともここ10年間に建てられた高性能住宅はしっかりとメンテナンスされながら長くその住宅としての役目を果たしていって欲しいものです。